サイトにあげるまでもないSSおきば
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──変わりものの錬金術師がいる。
その男の噂は、以前から聞いたことがあった。
不老不死、黄金の精製、人間の創造を目的とする、変人だらけの錬金術師。その中でも、男は飛び抜けておかしなことをやらかすらしい。
いわく、なにかしらの実験をしていたと思ったら、その途中で材料を探しに山へ向かう。
いわく、何日も家を留守にしていたと思ったら、ふらりと帰ってきて何日も出てこない。
話を聞くだけでも、彼の行動に統一性や計画性などどこにも見当たらない。
錬金術師は科学者である。
世界の理を探り、その秩序だった真理を見出すという考えを持った錬金術師の中で、男の無秩序性は当然ながら嫌われている。
彼の住み家に訪問するはめになったのは、単なる偶然、運命の巡りあわせによるとしか言いようがない。
あるいは単に、つい面倒ごとに首を突っ込んでしまう悪癖の故か。
「本当に、ありがとうございました」
そう言って頭を下げるのは、琥珀の瞳を持つ女だった。
謝辞は二度目。最初は、街道で山賊に襲われかけていた彼女を助けたときに。
今回は、「礼がしたい」と言う彼女に、森の奥にあるという屋敷へ案内されているときだった。
「何度も通っている道なのですが、最近は物騒な人が多くて」
困ったように言う女。
しかし、物騒な人間が増えるのにも理由があった。
戦だ。
ひと月前、隣国で若い王が即位した。若さ故の過ちとはよく言うが、血気盛んな若き王は自国の拡大を、すなわち戦を求めた。
結果、この国は若さ故の過ちのとばっちりを受けている。
まだ戦いは本格化していないものの、物価は徐々に上昇しているし、盗賊まがいのことをする者も増えた。
自分のような傭兵がこの国に来たのも、ひとえに戦の──カネの気配を察したからだ。
だから、通り慣れた道とはいえ、女が一人で道を歩くのは無防備にすぎる。
そう指摘すると、「そうですよね」と女は一度頷いた。
「でも、これは私の機能ですから」
……機能?
女の言葉選びに違和感を抱く。問い直す暇は与えられなかった。
「見えてきましたよ」
数歩前を歩いていた女が、こちらを振り返って微笑んだ。
その瞳は、薄暗い森の中にあっても煌めいているように見える。透きとおるような橙の奥に、深い茶色のもやがかかっているようだ。琥珀色の瞳と言ったが、本当に琥珀を光彩に埋め込んでいてもおかしくない。
宝石類で飾りたてる舞踏会の貴婦人方が、嫉妬に狂いそうな瞳だった。
「あちらが、私の住居です」
女が言葉を続けなければ、ずっと目を奪われていただろうか。
我に返って、引きはがすように視線を動かすと、確かに行く手には一軒の屋敷があった。
周りが開拓されていない割に造りは頑丈そうで、三階建てと背も高い。
ただ、手入れが行き届いていないらしく、外壁はほとんど蔦で覆われていた。
「森に溶け込んでいるでしょう?」
愉快そうに笑う女。
しかし、その笑みを見ても、心のざわつきは収まらない。
自分が首を突っ込んだ面倒ごとは、「襲われていた女を助ける」だけだったはずだ。
それが今、奇妙な屋敷を前にして、甘い憶測だったことを思い知らされる。
こんな場所に住んでいる人間が、「助けてくれた礼がしたい」などとまともなことを言うだろうか?
振り返って走り出せば逃げられる。そうするだけの理由と感情は揃っているというのに、自分の体は女の背中を追っていた。
あの瞳。
琥珀と見紛う瞳は、邪なる眼だったのか。
体が思い通りに動かない代わりに、思考は回転を速めていった。
錆びた蝶番の音も、地下室へと向かう女の足取りも、思考が悪い方向へ転がり落ちていくのを助けている。
「旦那様」
女の呼びかけで、自分の意識は現実へと向けられた。
壁一面の棚に、所狭しと様々なものが並べられている。言語の統一されていない書籍、どこかから削り出したらしい岩石、ガラス容器に入った液体……絵に描いたような怪しげな実験室。
呼びかけに応えて振り返った男は、思っていたよりもだいぶ若い。
「あぁ……ずいぶん待った」
独り言のように、男は言う。
年若い容姿には似合わない、血走った目がこちらを向いた。
そこには狂気が宿っている。
命のやり取りをする戦場で、強制的に血に狂わされる戦士とは別の狂気だ。
世界の真理を、秩序を、法則を、全てを解明しようとする、錬金術師の狂気。
「誇りに思いたまえ。錬金術の極致、人間と貴金属の融合、その第一例になれるのだから」
男の指は興奮に震えていた。
右手で掴んでいるガラス瓶には、白い球が入っている。
「人間の創造、黄金の精製。その先になにがあるか、考えたことはあるかね?」
気味悪く、男は笑う。
ガラス瓶の中で、ころりと球が転がった。その「光彩」がこちらを向く。
眼球だ。
わずかな光すら反射して輝く、貴金属の瞳がこちらを向いていた。
──本当に琥珀を光彩に埋め込んでいてもおかしくない。
女の瞳に抱いた印象が、にわかに現実味を帯び始める。
依然、体は動かない。
目の前に迫る脅威を避けることができない。
「まぁ、君は考える間もなく、体感することになるがね」
言いながら、錬金術師の男は手をこちらへのばしてきた。
特殊な器具を持っていないのが、むしろ恐ろしさを助長する。
かぎ状に曲げた指が自分のまぶたを持ち上げ、そして──
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夕日の色が赤ならば、朝日の色は青だと思う。
太陽が昇りきっていない間、街の色はどこか青みがかって冷たい。夜の色が尾を引いているせいか、それとも街が眠りから醒めきっていないせいか、単に季節のせいなのかと言われれば、間違いなく最後の選択肢が科学的で現実的なのだが、できれば一番目か二番目であってほしい、と私は思う。
科学も現実も、ハッキリしていればしているほど、私に安心感を与えてくれるものではある。分かりやすく、単純にものごとを確定してくれるのは、確かに安心以外のなにものでもない。
けれども。それが楽しいか、楽しくないかは別の話。
尾を引いて残る夜も、寝覚めの低い体温を具現化したような街も、私のバカげた妄想でしかない。が、そう思っていれば徹夜明けの朝日という苛立ちと憂鬱の根源も愛しいものになるはずだ。
ごつり、と鈍い音をわざとたてて、私は冷え切った窓ガラスに額を当てる。一晩の間に発熱能力の弱まった体は、必要以上に寒さを訴えて芯から温度を下げていく。脳の真ん中へ突き刺さるような冷たい鈍痛。これは、目に刺さる青い光のせいなのだろうか。それとも、痛覚神経を誤作動させる窓ガラスの冷たさのせいだろうか。
あまりに、寒い。あまりに、冷たい。
夜明け前が一番冷えるとは言うものの、新たな始まりと言うべき朝が、一日の誕生と言うべき朝が、こんなにも冷たくていいのだろうか。
街はいまだに動き出さない。
動き出してはくれない。
止まっている。停止している。停滞している。
私以外の生物が止まり、地図から名前が消えた街は、いつまで経っても目覚めはしない。
死も逃亡も許さず、私を軟禁し続ける街は、眠っているのではない。
この街は死んでいる。この現実が夢か妄想なら、どれだけ心が楽だったことだろうか。
お題:明け方の街
by フリーワンライ企画さま @freedom_1write
なんで目覚めてしまったのか、自分でもよく分からない。
意識を取り戻して最初に知覚したのは鉄の味だ。次に寒さを感じて、身じろぎしようとして手足の感覚が薄いことに気がついた。視界がぼやけているのも、どうやら脳が目覚めきっていないから、というわけではないらしい。
考えてみれば、たしかにおかしな話だ。
意識を手放す前に感じていた痛みが、今はやけにおとなしい。
痛覚を司る神経が死んだのか、あるいは脳内麻薬がそれなりの役目を果たしたのか、俺には判別がつかない。
分かることと言えば、すぐそこに冥府が近づいていることくらいだろうか。
ひどい死に様だな、と思わないこともない。ただ、理不尽な死ではなかった。
少しヘマをしただけだ。
相手を間違えた。力量を見誤った。一時の感情に身を任せた。
言葉にすればたったそれだけの、しかし言葉通りに致命的なミス。
バカな自分を慰めようと笑んでみても、咳のような息が吐きだされただけだった。
「──生きてるの?」
まさか、その咳に応えるやつがいるとは思わない。
幻聴だと思った。声に聞き覚えはないが、先に逝った知り合いの誰かが手招きしてるんだろう。残念ながら、そこまでされても行きつく先は同じだ。こっちから向かってるんだから迎えになんざ来なくてもいい──と、無駄な軽口さえ思い浮かぶ。
けれどもどうやら、声の主は実体を持って生きているらしい。
視界に入ってきたのは白だった。
ぼやけた目には刺激が強い。さっきまで目に入っていたのが薄汚れた天井だけだったのだから、なおさらだ。
細部は見えないが、声から察するに女、それも成長し切ってない少女だと思われた。ではなぜ頭髪が白いのか、という疑問は残るが、肌の色が白すぎることにはなんとなく答えが出る。
輪郭が人間のそれではない。
と言うと大げさだが、尖った耳が横に突き出た独特の輪郭は、確かに人間のそれではない。
エルフ族。
よりにもよって。
古くさい差別意識など抱かないように生きてきたつもりだったが、今回ばかりはそうもいかない。
相棒を殺し、俺の腹に穴を開けて薄汚い部屋に投げ込んだのは、エルフ族の男だった。
たったそれだけでエルフ族全てを憎むほど単純な頭はしていないが、死にかけた今だけは尖った耳を見たくないと思っても許されるだろう。自分の死を看取るものがいるだけ幸せだと思うべきなのだろうが。
「動けない?」
白いエルフが問うが、そもそも答えることすらできそうにない。声を出すだけの深い呼吸さえできず、微かな咳を出すのが精一杯という体たらく。
俺から答えがないと知ると、エルフは消えていった。灰色の天井だけが残る。
あとどれだけ血を流せば死ぬのだろうか。
ただ寝転んでいることしかできないのに、覚醒してしまった意識だけが回転を続けている。
相棒は死んだ。
相棒と言うのもおこがましい、優秀な捜査官だった。
死と縁遠い職場ではないが、死ぬのを想像できないようなやつだったことは確かだ。
そんな男が、死んだ。
あっけないものだった。エルフ族の男はヒトならざる速度で移動して、相棒を殺した。退くという判断を下さなかった俺の腹を刺した。死体置き場のような部屋に投げ込んだ。
多少の知識はつけたつもりだったが、どうやら俺はまだ魔学というものを理解できていなかったらしい。
「あなたも私を置いて死ぬ」
姿は見えないが、白いエルフの声は平坦にそんな言葉を紡いだ。
「レオパールと同じ。でも、それなら」
豹? と内心首を傾げる暇もない。
ずり、と重いものを引きずるような音が聞こえてくると同時、エルフの手が俺の体に触れた。
寒気が全身を駆け抜ける。血を失った体温の低下などものともしない心理的な冷たさが脳髄を揺さぶっている。
エルフ族は、差別と迫害から身を守るために魔学という学問を見つけ出した。
科学と対をなすそれは、当然ながら敵対者たるヒトに開示されることもなく現在まで秘匿されている。俺と相棒が追っていたエルフ族の男は、魔薬学──薬を作りだす魔学によって強いドラッグを作成、販売しているとして捜査線上に浮かんだ人物だった。
では、ここにいる少女は。
白いエルフは、一体なんの魔学を極めているというのか。
「私を恨んだら、殺してもいいから。レオパールのいない命なんて、意味ないから」
涙声で言うエルフに、答える術はない。
見えない位置でエルフが作業を進めると、灰色の天井以外のものが視覚できるようになってきた。ぼやけた視界とは別に、イメージが網膜や脳に直接叩き込まれる。
見えてきたのは、黒い豹だった。
体毛も瞳も爪も、光を吸い込みそうなほどに黒い、一匹の豹だった。
「……〈私は奪う〉」
エルフが絞り出すように告げる。
遮ることはできない。体は言うことを聞かず、精神は黒豹の視線に縫いとめられて抵抗をやめた。魔学への嫌悪感も嘘のように流れていった。
「〈私は奪う。屍が糧となり、土となる未来を私は奪う〉」
黒豹の瞳はむしろ穏やかだった。波ひとつない水面のような平静さで、まっすぐに俺を見つめ続ける姿は、肉食獣というより草食動物に近い。あるいは、知性を持つヒトに。
「〈私は奪う。命が絶え、生が終わり、屍となる未来を、いまこのときだけ私は奪う〉」
レオパール。
エルフが呼んだのは、この黒豹だったのだろうか。
だとすれば、これは、
「〈屍と命は混じりあい、私の──〉」
エルフの言う屍と命は、
「帰ってきて……レオ」
豹の名が呼ばれた瞬間、俺の意識は電源でも切られたかのように再び闇に落ちた。
もう一度目を覚ます、なんてことがあったら、そのとき俺はすでに人間ではないのだろう。
○あいさつ○
このブログは 射月アキラ が短い話を適当にうpするだけの場所です。
一次創作・オリジナルのみとなります。掌編、SSだらけになります。
ジャンルはファンタジーが中心になると思います。
苦手な方はさようなら。
大丈夫な方はようこそ。
○メイン活動○
好物だ! と思ってくださった方は是非サイトの方も覗いてみてください。
むしろサイトが主体です。
ぐりぐり ぐりむ☆りーぱー / 創作小説・イラストサイト
○Thank You!!○
サイト用に作ったバナーは画像サイト「戦場に猫」さまよりいただいております。
戦場に猫 / 写真素材サイトさま
○最後に○
気軽に投げてる話ばかりなので気軽に見て行ってください。
「好きです」「見るに堪えん」などコメントご自由にどうぞ。
以上。射月でした。
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プロフィール
HN:
射月アキラ
HP:
性別:
女性
自己紹介:
一次創作・オリジナルなファンタジー小説書き。
普段はサイトで好き勝手書き散らしているが、そこでページ作るのもめんどいと思ったらこっちで好き勝手書き散らす。短い話はだいたいこっちに投げられる。
褒めても喜びけなしても喜ぶ特殊体質。
ついった:@itukiakira_guri
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