忍者ブログ
サイトにあげるまでもないSSおきば
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 恐ろしいほどに寝覚めがよかった。
 悪夢に叩き起こされる日々が続いていたからかもしれない。泥沼から引きずり出された意識が体に戻ってきたような、ほどよい倦怠感すら伴う朝は久々のことだった。
 このまま倦怠感に任せていてもよかったのだが、幾分冴えてきた頭が違和感を訴えてくる。
 まず、気温は低くなるばかりの季節だというのに、妙に暖かい。
 そもそも、自分のものではない呼吸音がする。
 というか、隣で誰かが寝ている。
「────っ!?」
 後先を考える間もなく、ほとんど反射的に上半身を起こした。冷たい空気が身に沁みる。
 案の定直後には血が不足した頭が痛みを発して、耐えている間に隣の誰かが身じろぎ。どころか、掛けていた布団まで引っ張って、
「……………………さむい」
 不満げに言って二度寝の姿勢に入る。
 いや待て。
「起きろ」
 とっさに出した膝は、感触からして相手の腰骨に当たったらしい。
 うー、とうめく声を聞きながら、一応周囲を確認する。いつも通りの視界。問題なく自室だった。
 振り返って見れば、布団の下からうめき声とともに出てきたのは赤みがかった黒い髪だった。前髪が長すぎて、顔の右半分は見えない。残った左半分も、目元をこする手でほとんど隠れてしまっている。
 顔立ちは分からない。だが、知り合いだった。
 アディ。異世界から来たと自称する、殺しが嫌いな殺し屋。
「あ、おはよう十三番」
 ──には見えないのが現状だが。
 気の抜けたというか、力の抜けたというか、とにかく隙だらけの笑顔を浮かべる姿は、やはり第一印象と合致しない。
 少なくとも今目の前にいる人物は、考えるより先に、本能的に戦闘態勢に入ることを強いられるような相手ではない。
 二重人格を疑ってもいいところだったが、今はそんなことより重要なことがあった。
「あぁ、おはよう。で……アディ、なんでここにいるんだ」
 二つの意味で。
「え? だって一緒に寝たらあったかいよ?」
「…………」
「それに、なんかすごい寒かったし」
「………………今ものすごく頭を抱えたい気分だ」
 頭痛がするのは気のせいだろうか。
 アディの第一印象との差異は広がるばかりで、まるで留まる気配を見せない。
 むしろ第一印象が誤っていた──というか、特殊な状況下にあったと言った方がいいのか。
 第一印象がなくても、見た目と発言の差異が大きすぎるのだが。
 おまけに、頭に柔らかい感触。
「なんだそれは」
「えっと、クマさん?」
 視線だけそちらに向けると、茶色いぬいぐるみが見えた。
 見覚えがない。というか、「クマ」からは想像できない、見るからに子ども向けのぬいぐるみだった。察するに、アディの私物か。
 そのぬいぐるみの腕で頭を撫でているつもりらしい。
 振り払うのもためらわれてそのままにしていると、アディが先に口を開いた。
「夜、うなされてたね」
「────」
 思わず顔を上げると、ぬいぐるみと一緒に手をひっこめたアディがこちらを向いていた。
 初めて直接見た瞳は、血の色をしているくせに優しい。
「よく眠れた?」
「……すさまじく」
「じゃ、一泊分のお返しはできたかな」
 前回の意趣返しだ、とでも言うように、アディの顔は誇らしげだった。
 ただ、このままでは少しばかり割に合わない。
「朝の紅茶くらいは淹れてやる」
 安眠代は、一泊の宿代より高い。



ハッシュタグ #朝起きたら隣りによその子が寝ていたときのうちの子の反応

月景さん(サイト:はんだごて)とうちの十三番でコラボ2
 へのリターンでした。
アディさん聖母尊い

PR
この記事にコメントする
Name
Title
Color
E-Mail
URL
Comment
Password   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
プロフィール
HN:
射月アキラ
性別:
女性
自己紹介:
一次創作・オリジナルなファンタジー小説書き。
普段はサイトで好き勝手書き散らしているが、そこでページ作るのもめんどいと思ったらこっちで好き勝手書き散らす。短い話はだいたいこっちに投げられる。
褒めても喜びけなしても喜ぶ特殊体質。
ついった:@itukiakira_guri
リンク
P R

Template by Emile*Emilie
忍者ブログ [PR]